08/09/15 九月文楽第二部「奥州安達原」鬼婆つきの3・4段目

「奥州安達原」は袖萩祭文を福助で一回観ているがあまり感動できない演目だった。文楽では2007年2月公演で朱雀堤の段と環の宮明御殿の段を観ている。そちらでやっと面白さがわかってきた。そして今回ついに安倍貞任の母親が鬼ババァで出てくる場面まで観ることができる!
【奥州安達原】朱雀堤の段~谷底の段
《朱雀堤の段》話は省略
三味線は竹澤団吾一人だが、大夫は南都大夫ほか8人が役ごとに語る。全員が上手の床に並ぶのは無理なので2人分の席で出番がある時に入れ替わっていて、そのたびにしっかり見てうまい役割分担だと思って感心していた。
《環の宮明御殿の段》話は省略
中 咲甫大夫&清志郎 次 文字久大夫&清介
前 千歳大夫&富助 後 英大夫&団七
袖萩と父・直方がお互いを思いながら知らずにほぼ同時に自害してしまうくだりにまた泣かされた(T-T)
《道行千里の岩田帯》5梃5枚の景事
八幡太郎義家の家臣・志賀崎生駒之助(清十郎)は、義家の娘・八重幡姫に懸想されているにも関わらず馴染みになった傾城恋絹(和生)と朱雀堤の段で駆け落ちをしている。その続きで薬売りに身をやつしての道行の場面。本来ならば八重幡姫を立てて身を引くべき自分が身重になったために夫婦は二世の契りのところ、この世は自分、来世で姫ということにという現代人には理解できない約束をした恋絹。薬入れを降ろしての踊りのところでこの世限りの夫婦かと思うと押し寄せるせつなさがあふれるが、また気を取り直して先を急いでいく。
《一つ家の段》
奥州安達原の一つ家に旅の男(蓑一郎)が立ち寄ると主の老女(勘十郎)は追剥が出ると脅す。男は宿を借りたいと申し出、老女は男の金を預かると言って怪力で取り上げると腕ごともげるので止めを刺して腕を芋桶に入れておく。続いて生駒之助と恋絹が一夜の宿を乞う。恋絹が産み月で癪を起こしていることを知ると老女は生駒之助に薬を買いに行くことをすすめる。連れ立って出かけた二人を待ちくたびれた恋絹が禁じられた奥部屋覗きをしてしまうと髑髏にびっくり、桶から血まみれの腕に逃げ出そうとする。そこに老女だけが戻り、腹の子が欲しいと言い出す。それも今だと迫る。恋絹は必死で逃げ回るが刺し殺されて腹を割かれ、胎児は血を絞られる。
山で迷子にされた生駒之助が戻ってきて恋絹の亡骸を見つけて嘆き悲しみ、殺したであろう老女を探すと御殿のような一間から十二単姿で老女が登場。安倍貞任らの母で預かった環の宮が止声病になり、そのための薬として胎児の血が役に立つのだから有難く思えと言い放つ。
先に薬売りの若い男を連れて戻ってきたこの家の賎の女が宮付きの内侍だとのことだったが、実は新羅三郎義光(蓑二郎)で宮も義家の子だと大番狂わせが起きる。薬売りの若い男も実は鎌倉権五郎(玉志)。さらに殺した恋絹は頼時と自分の間の娘だったこともわかって老女は最早これまでと自害して谷底に飛び込む。
中は呂勢大夫&清治は文句なしにいい。奥の咲大夫が休演(怪我療養)のため文字久大夫&燕三。文字久大夫はこれまであまり印象に残っていなかったが、今回は見事だった。こういう大役を代演でしっかりつとめることで光が当たるようになるものだ。第一部の清十郎口上の司会の役割もしっかりつとめていたし、今月公演でしっかり印象に残った。
それにしても老女岩手の勘十郎である。「莫耶」という鬼婆のような首をつけた老女岩手をコワイ顔の勘十郎が実に恐く遣うので恐さ3倍増!!!止めを刺した恋絹を押さえつけて「乳の下を十文字に腹裁ち破る有様」のところ、勘十郎が恐い顔で刀にぐいぐいと力を入れて縦に横に動かす動きをするたびに恋絹を遣う和生が実に辛く苦しそうな顔をするのを息をつめて見つめてしまった。その腹からは血まみれの胎児の人形が取り出され・・・・・・人形ではここまでの残酷場面が実に見せ場になっている。「ドラクル」で海老蔵が少年の内臓を抉り出す人形を使った場面を思い出してしまった。長塚圭二のスプラッター物の原点は文楽にあったのか?!(全く定かではないが(^^ゞ)
岩手の自害の最後は自分で自分を刺し貫いた上に刀をくわえて谷へ身を投げる。人形がそのまま落されるのもまた迫力だ。
《谷底の段》つばさ大夫&清丈
老女の一つ家=隠れ御殿の大道具がそのまま上に上がっていき、谷底の場面への転換。文楽の場面転換もけっこう見応えがある。
谷底にいた貞任軍との戦も義光たち源氏の勝利で決し、貞任(玉女)も姿を現す。弟宗任の命を助けた礼にと奪っていた十握の剣を返してくる。貞任は自害した母の亡骸を抱いて涙する。
敵ながらあっぱれと義光は戦場での再会を約し、生駒之助も伴侶の恋絹を犠牲に十握の剣を取り戻したと勘当を許される。大団円での幕切れ。
安倍一族は東夷ということで、その母親も怪力を持った恐ろしい鬼婆にされてしまっている。人間とは思えないような非道なことをするように描かれながら大望のためであり、そのことで娘や孫を無駄に死なせたことがわかると黄泉路を追いかけて自害していくというドラマチックな物語にしているところが興味深く面白かった。
襲名の清十郎はこちらでは二枚目をしっかり遣っていたし、人間国宝の文雀も浜夕でつきあっている。
玉女の貞任は前回と同じ。宗任を遣っていた勘十郎が今回は岩手と遣える人形の幅の広さを今回も印象付けた。女方から立役まで広く遣えるからこれからも大活躍を続けるだろう。
こうして人形だからこそ楽しめる場面も多い文楽に引き込まれてしまっている。人間国宝だけでなく中堅どころがぐんぐん力をつけていくのを目の当たりにしていると、しばらくは観続けようと思ってしまう。
観劇貧乏な日々が続きそうな予感である(^^ゞ
写真は公式サイトより今回公演のチラシその2の画像。
9/14第一部①「近頃河原の達引」、豊松清十郎襲名口上
9/14第一部②豊松清十郎襲名披露狂言「本朝廿四孝」