12/06/05 澤瀉屋の団体襲名披露公演初日昼の部(3)新猿之助の狐忠信が愛おしい「四の切」

澤瀉屋の団体襲名披露公演初日昼の部の最後は「四の切」。2010年の亀治郎の会と2011年5月の明治座で観ている。
「四の切」の舞台装置は今年のGWの「渋谷亀博」で展示され、装置に上がっての見学がOKという嬉しい企画で私も実際に上がって触っての体験済み。
いよいよ、四代目猿之助襲名公演の「四の切」を観る!
【三代猿之助 四十八撰の内 義経千本桜「川連法眼館の場」】
市川猿之助宙乗り狐六法相勤め申し候
今回の配役は以下の通り。
佐藤忠信/忠信実は源九郎狐=亀治郎改め猿之助
駿河次郎=門之助 亀井六郎=右近
川連法眼=段四郎 飛鳥=竹三郎
源義経=藤十郎 静御前=秀太郎
冒頭、鎌倉からの義経詮議についての川連法眼夫婦のやりとりからして、新猿之助の父段四郎と竹三郎で見応えあり。竹三郎は黒髪で飛鳥の拵え。そういえば、義経と静も藤十郎、秀太郎だし、上方の役者で固めてきた配役だと気づく。
藤十郎の義経という配役は襲名公演に大きな花を添えるものだが、登場しただけでぱあっと華やぐのはさすがだ。初日ということもあって台詞がちょっと怪しいところもあったが、見慣れた脇息がないやり方とのことで本行にのっとっているのではないかと思う。
本物の忠信で登場した新猿之助は、やはり華奢なせいで生締物らしさが不十分なように思う。それでもまぁ贔屓には、きりっとしていてけっこう楽しめるのだが(^^ゞ
秀太郎の静御前は初役ということだが、藤十郎の義経とのバランスがよいだけでなく、赤姫姿や声も実に若々しい上に、静が正妻ではなく白拍子上がりの愛妾という控えめさと色気が漂っていて、こんな静御前を観るのは初めてで感心至極だった。古風な女形の芸というのはこれかとあらためて感じ入りながら観ていた。
門之助の駿河次郎、右近の亀井六郎に詮議の場に引かれていく忠信が、早替わりして静の打つ鼓で黒い階から狐忠信で出てくるところでは、ドキュメンタリー映像や舞台見学の体験から裏での様子もイメージできるのでワクワクと楽しい。
秀太郎の静の詮議は実にはんなりとしていて、それを受ける新猿之助の源九郎狐の声も動きも柔らかい。鼓に引き寄せられて我を忘れかかる源九郎狐の本性が垣間見え、その隙をみた静が刃を抜いて斬りかかり、源九郎狐の声が一層高まってと、詮議の場がこんなに面白かったことはない。
新猿之助の狐言葉には磨きがかかり、カンの声が安定しているだけでなく伸びたり早口になったりの緩急が自在で長台詞も聞き惚れてしまう。今回、途中で喉の奥でカッ、カッという音を出した時にはゾクッとした。
親狐を雨乞いの鼓にされて孤児になった狐は、仲間の中で親に孝行していないからと蔑まれてきた悔しさ、孝養をつくしたくても親の鼓は宮中にあり八百万の神に守られて会いたくても会えなかった悲しさを長い年月噛みしめてきた。平安京を開いた桓武天皇の御代から鎌倉時代に入るころまで約400年も待ったわけだ。「千年功ふる牝狐牡狐」の子であり、自らも通力をもつようになっている。その鼓を義経が賜ったために忠信に変化して鼓に近づくことができたのに、ついに本物の忠信が現れて別れなければならない。400年待って得たここしばらくの年月の幸せが早くも失われようとしている辛さ。親子の情愛が通う一時の幸せを得たために、その別れは親にも子にもつらいというドラマが浮き彫りになっている。
新猿之助のしなやかで敏捷な動きが達者な台詞とあいまって源九郎狐のドラマが前回よりもさらにバージョンアップして迫ってくる。上手の小窓で本物の忠信で姿を見せて早替りで上に登ると大道具の欄間部分が揺れるのがわかると心が躍る。いよいよ欄間抜けで舞台中央に着地した時に勢い余って舞台の縁にぶつかって木の枠が外れてしまった(3階からだとよく見えてしまった)のは初日のご愛嬌か(^^ゞ
狐の親子の情愛に強く打たれる義経の身の不幸を嘆くという悲劇の構造が、藤十郎、秀太郎の共演でさらに深くなっていて、今回の舞台は見応え十分だ。葵太夫の竹本に演者がみなうまく乗って、本格的な義太夫狂言としてのコクも味わえたのも嬉しい。
その義経から鼓を与えられた源九郎狐の歓喜は爆発的だ。狐手で鼓にじゃれついて転がす時に思わぬ方向に転がってしまい、戻す動作がまたご愛嬌になった。
夜討ちにくるはずの荒法師どもを通力で呼び込んでの立ち回りの動きもよく、早替りの身代わりも使って宙乗りの装置を着込んで再登場。下手で荒法師が囲んでワイヤー装着というのもうまい演出だとつくづく感心。鼓を得た喜びを炸裂させる。新猿之助のクールな芸風とのギャップが大きいはじけるような笑顔を目の当たりにして、観ている自分も心が躍るように嬉しくなってしまった。3階左席の鳥屋近くの席で観る幸せを噛みしめた。
さて、冒頭の写真は、初日口上の記事でもご紹介した福山雅治に制作を依頼したという口上特別ポスターの画像。6/13の日本テレビの「NEWS ZERO」では、福山雅治が今回の襲名公演の祝幕とポスター制作を依頼される様子、制作現場、出来上がったものを劇場で観る様子などを特集でオンエアしていた。高校時代からファンだった「ましゃ兄」に対する時の亀治郎は本当に大好きな人に会える喜びを満面にあらわした男の子のようだった。ポスターの撮影で裃の衣装をつけてワイヤーで釣られている時にカメラをもった福山雅治に向ける満面の笑顔は、源九郎狐の宙乗りの時の笑顔を同じだったので、妙に納得してしまった次第(^^ゞ
6/5の澤瀉屋の団体襲名披露公演初日昼の部の他の記事は以下の通り。
(1)涙、涙の「口上」
(2)新中車堂々の主演「小栗栖の長兵衛」
夜の部の「ヤマトタケル」は23日に観劇予定。
(追記)
冒頭の口上特別ポスターとヤマトタケルの特別ポスターはJR駅頭で並べて貼りだされて大宣伝に使用されたようで、ネット検索したら渋谷駅での掲示の様子をアップされている「雅治氏な日々」さんの記事を発見したのでご紹介させていただく。