08/09/19 秀山祭夜の部②贅沢な布陣の「盛綱陣屋」

「盛綱陣屋」は勘三郎襲名で初見。
当時は時代物が大の苦手だったが、最近は義太夫狂言の面白さに目覚めてしまっているので今回を楽しみに観た。
【近江源氏先陣館 盛綱陣屋】
今回の主な配役は以下の通り。
佐々木盛綱=吉右衛門 妻早瀬=玉三郎
盛綱母微妙=芝翫 高綱妻篝火=福助
高綱一子小四郎=宜生 盛綱一子小三郎=玉太郎
和田兵衛秀盛=左團次 北條時政=歌六
伊吹藤太=歌昇 信楽太郎=松緑
竹下孫八=桂三 古郡新左衛門=由次郎
実に豪華な布陣だ!
左團次の和田兵衛秀盛は情けのある敵方の武将という感じで吉右衛門の盛綱とのやりとりも大きなバランスもとれている。盛綱が母微妙に弟が立派な働きができるように人質となった甥を切腹させるよう頼むあたり、武家としてあるべき姿のために情愛を犠牲にする苦しさを母子で共有するという切なさが吉右衛門と芝翫の芝居で重厚に漂った。
妻早瀬の玉三郎が場を払うような硬質な美しさがよい。情にほだされて息子の小四郎が囚われた先へ忍んでくる篝火との対照が生きる。篝火が矢文で自分が忍んできていることを和歌で知らせると、その矢にあせらずに時を待てという返歌を結びつけて返す場面が大きい。篝火の熱さと早瀬の冷静さ。火と水にちなむ名前は作者の妙か。
子役の大役といわれる小四郎を宜生が予想以上の好演。台詞は多く難しく、芝居も複雑なのだが、夏休みで練習をいっぱいしたのかなぁとも推測。婆の芝翫とのやりとりも健気。小柄な宜生を身体一杯抱きかかえての芝翫の微妙の姿のせつなさに胸を打たれる。
歌六の北條時政はどんなものかと登場を待っていると、陰影深い顔のメイクが不気味さをいっぱいに漂わせて舞台中央に着座。首実検の褒美にと盛綱に与えた鎧櫃に間者を忍ばせておくくらい猜疑心の強い権力者という役柄を的確に演じていて舌を巻いた。歌六は脇役としてのニンだと思うがここまで大きな存在感になってくれて、吉右衛門は萬屋一門とともに安心して座頭がつとめられるというものである。
吉右衛門の首実検の芝居は身体の動きも表情も極めるところを極めながらたっぷりとしっかりと見せつける。懐紙と小柄を使っての首実検の作法というものもあらためてよくわかった。段取りもきちんとしながら心理を示す動きもあり、観ている方もかどかどの盛綱の心理の変化が手に取るようによくわかる。
高綱の首でないとわかってニヤリとし、それならば小四郎がなぜ父と呼んで腹に刀を突き立てたのか不思議に思い、ややあって高綱親子の計略に気付き、あっと驚く。そのために命を捨てた甥の健気さに打たれて、自分も切腹を覚悟。時政に嘘の言上をする。
早瀬から篝火まで来ていることを聞いていて、一瞬で父も母も子も情愛を犠牲にしての計略だと思い至ったはずだ。時政一行が引き上げた後で大きな声で篝火に小四郎との最後の対面を許す。
小四郎を囲む微妙、早瀬に加わる篝火。女3人は泣くばかり。盛綱は親子の計略を見抜いた推理を語った上で「誉めてやれ誉めてやれ」と日の丸の扇を開いてかざして甥を心一杯誉める。「わしが死ぬると父上の戦が勝ちますか」に応えてやると満足して切腹の作法通り立派に刀を引き回す小四郎。「アーアーアー」は子役が死ぬ前に苦しむ時の声だが誰かとどめを刺して早く楽にしてやれよ~と思わず思ってしまうくらいの切なさ!かけつけた母の顔ももう見えないのだろう。盛綱も心の中で泣いているのだろう。ついにおちいる小四郎(T-T)
私もしっかり泣かされながら、いろいろと気づいて堪能させてもらった舞台となった。
そして今回の配役は実に豪華だったと思う。
小四郎の身体を包むのに芝翫の打掛けを脱がせる介助を玉三郎が手際よくしているのを見て、なんて贅沢なと痛感。芝翫・福助の嘆きと血はつながらない伯母の玉三郎の嘆き方の差のわかる女方3人の泣きの芝居の贅沢さ!
ご注進で登場する信楽太郎の松緑や伊吹藤太の歌昇などもちょっとの出番なのに実に贅沢な配役!!
吉右衛門の芝居も秀山祭や五月演舞場が始まってから気が入ってますます見応えがあるようになってきた感じがする。
こうして物語も把握した上で、この場面を今回の役者はどのように演じるだろうという楽しみ方ができるようになってきて、ますます歌舞伎にハマっていくのである。次は是非、仁左衛門の盛綱を観てみたい。
写真は『耳で観る歌舞伎』の今月の表紙を携帯で撮影したもの。
9/7昼の部①「日本振袖始」
9/7昼の部②「竜馬がゆく 風雲篇」
9/07昼の部③「逆櫓」
9/19秀山祭夜の部①初代の写真、中幕「鳥羽絵」